2013年2月17日日曜日

リッツ・カールトンと日本人の流儀


リッツ・カールトンと日本人の流儀

毎日の生活を支えるものは、自らが得たものである。長い人生を支えるものは、人に対して与えたものである。

p1
一人ひとりが持ち場で最善を尽くすには、プロとしての「ものさし」が揃っていなければなりません。この「ものさし」が共通言語といえるのです。「阿吽の呼吸」は、「ものさし」が揃っているから成立します。そこに関わる人すべての「ものさし」が揃うことで、はじめて同じ目的に向かって進んでいくことが可能なのだと、日本の伝統建築を通して気づくことができました。
そして、そこには熱き情熱を絶やすことなく語り続けるリーダーの存在が不可欠です。プロフェッショナル集団の心をひとつにし、同じ夢に向かって進む集団を率いるリーダーの存在です。(中略)
トップが語る確かな言葉が、人を動かします。
トップが語る熱い言葉が、人の心を動かします。

p35
「世のため人のために働くことが生きる証である」と言われることがあります。世の中の役に立った、人様の役に立ったと実感できたとき、人は成長するものです。相手の立場に立って、自分にできることを考える。成長するとは、「人の心に寄り添い、人の思いを感じる力」がつくことです。

p36
目の前にいる人だけではありません。遠く離れたところで人生と闘っている人たちの心にも同じように寄り添い、自分にできることを考え続ける。「心に寄り添う力」が、リッツ・カールトンが定義する「ホスピタリティ」なのです。

p38
クレドは同じ感性と価値を共有して、同じものさしで行動できるように心を導くものですから、マニュアルのような細かい決まり事はありません。クレドは、スタッフが現場でさまざまな問題に直面したときのぶれない軸となり、物事を推し量るときのものさしになります。「心のおもてなし」をするための行動指針です。

p42
残念ながら、未だに従業員側に覚書や誓約書を求める企業は少なくないようです。会社が約束をするのと、従業員が約束させられるのでは信頼関係を築くという考え方に大きな違いがあります。会社から従業員への約束は、経営トップの覚悟がなせる業。まさにリーダーシップの賜物ではないでしょうか。
私がリッツ・カールトンの一員となり、「ゴールド・スタンダード」を手にしたときに感じた責任と充足も、こうした経営トップの覚悟に裏打ちされたものにほかなりません。

p48
「ワオ・ストーリー」を世界中のスタッフに発信する大きな理由は社員教育のためもありますが、もうひとつの大きな理由があります。一人ひとりのスタッフにワオ・ストーリーの場面を想像してもらうことです。お客様が喜んでくださっているシーンを想像する。それを誇りに思うスタッフを想像する。その場面を想像しながら「自分ならどうするだろう、何ができるだろう」と自分自身に問いかける。
スタッフ一人ひとりに感性の筋トレの機会を与え、考えることが習慣になると、自ら動き出すようになります。そこから新たな創意工夫が生まれてきます。誰もがやっていることを、誰もやらないレベルで考えるようになります。こうした機会をたくさん持つことは、「心からのおもてなし」をする上で大切なことです。

p54
成功するためには、「自分の年収の五パーセントを、自分の成長のために投資せよ」といわれます。(中略)
もし、現在の年収が五百万円なら、その五パーセントは二十五万円です。でも、目指す年収が倍の一千万円なら、その五パーセントは五十万円です。
二十五万円は今の自分を維持するために必要な投資額にすぎません。より高いステージを目指すのであれば、自分を磨き成長させるために五十万円の投資が必要ということです。 投資は自分を信じていなければできないことです。
投資は、「将来必ず大きくなって戻ってくる」と自分を信じ、自らを奮い立たせるためのものです。

p60
身につけるということは、身体が自然に動くようになるまで日々繰り返して会得することです。
誰もが当たり前だと思ってやっている日常の小さなことひとつひとつを、誰もがやらないレベルで繰り返しやっていくと、社員一人ひとりも、ホテル全体も変わっていきます。それが、ホテルマンとしても人間としても感性のアンテナを磨いていくということです。

p83
恩返しではなく、恩送り
人は、恩を受けると後進のために自分に何ができるのか考えるようになります。自分が受けた恩を後進のために活かしたいと思うものです。自分が人の上に立つ立場になったとき、次の人に同じことをしたいというスイッチが入るからです。

p89
本当はネイティブのように話すことができなかったから、聴くしかなかったのです。
でも、そのうち、話を聴き続けることは人間が本来持っている可能性を引き出すことだと気づきました。人の話に耳を傾けることは、相手を尊重することです。話を聴いてくれる人がいることは自信になります。人は、誰かに話すことで気持ちの整理をし、自分で答えを見つけることができると気づいたとき、それが日本人である私の仕事の流儀になりました。(中略)
相手を尊重して自分を主張しすぎない。常に、自分のことより相対する人に意識がいく。(中略)
傾聴。日本人は人の話に耳を傾け続けることが得意です。聴くことが苦痛ではない性格が、いつの間にかアメリカでの私の個性や強みになり、私の仕事の流儀の礎になっていきました。 

p101
みんなでリッツ・カールトンの価値を創造していく気持ちよさ、いい夢に巻き込まれていく実感、熱い温度の中で夢を共有し実現していく喜び。
目には見えない確かなものを手にしたとき、それはどんな高いサラリーをもしのぐ最高の報酬となります。経営陣と共に価値を生み出していく場で仕事ができることが最高のしあわせでした。
トップが語る言葉が、心を動かし、人を動かします。
シュルツィは経営者としてももちろん超一流の人ですが、リーダーとして秀でた人でした。
「彼と一緒に仕事をしたい。彼のエネルギーのシャワーを浴びていたい」
みんなが彼の下に集まってきます。彼の熱意に引き寄せられて。
「桃李言わざれども下自ら蹊を成す」。徳のある人は自ら求めなくても、世人がその徳を慕って自然に集まってくるということです。
人は誰でもリーダーと共に価値を生み出している実感を持ちたいものです。その実感があれば、給料やポジションに惑わされることもなく、本来やるべき仕事に情熱を傾けることができます。

p108
呼ばれ方ひとつで仕事に対する意識が変わります。言葉の力は人を変え、仕事を変えていきます。(中略)人は納得すれば動き出します。仕事に誇りが持てるようになります。でも、納得できなければ動かないものです。
経営者のスタッフに寄せる思いが、呼び方に表れています。思いを言葉にすることで、リッツ・カールトン全スタッフの「ものさし」が整っていきます。真実の言葉は、これほどまでに豊かで力強いエナジーとなるのです。

p109
日本初のリッツ・カールトン開業を託された私は、帰国前にシュルツィと話す機会がありました。
「トップになるときのコミットメント(腹の決め方)は三つある。それは、Love(愛)、Passion(情熱)、Courage(勇気)。この三つを失くした者はリーダーではない」
「その中から、あえてひとつを選ぶとしたら、リーダーとして中心に持ってくるものはなんですか」(中略)
「……勇気。リーダーにとってもっとも大事なこと。それは、勇気だ」
「そう、勇気だ。ひとりで決断する勇気。社員を信じ切る勇気。ほかの人の判断に惑わされない勇気。勇気こそが何ものにも優先されるべきものだと思う」
「勇気は語ることもむずかしいが、実行するのは、もっとむずかしい」

p111
性善説でも性悪説でもない、「性弱説」。
本来、人間は弱いもの。ときに誘惑に駆られることもあります。弱いからこそ、信じることで強くなる。弱いものを信じなければ、もっと弱くなってしまう。トップが人を育てるということは、弱いところもすべて受け入れる覚悟を決めることです。

p115
リッツ・カールトンには「リッツ・カールトン言語」があります。たとえば、お客様からのご要望には必ず「Certainly my pleasure.(かしこまりました。よろこんで)」とお応えします。「OK」でも、「Sure」でもありません。使う言葉が決まってくると態度も考えも決まってきます。そして、同じ言葉を使うことでスタッフ全員の「ものさし」が揃ってきます。

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